過去と地続きの今を生きていく。蒼井そらが選んできた道

マイナビウーマン

取材・文:みのたなみ(マイナビウーマン編集部)、撮影:洞澤佐智子言葉にうそがない人だと思った。

自分を飾り立てようとするわけでもなく、自身の思いをまっすぐに込めた言葉。

彼女はなぜ、こんなにもしっかりと「自分」を表現できるのか。

タレントの蒼井そらさん。

2002年のデビュー後、セクシー女優として第一線で活動していたが、2011年に引退。

現在はタレントや女優として、国内だけでなくアジア諸国でも活躍している。

特に中国での人気と知名度は、日本の芸能人の中でもトップクラス。

中国版Twitterの「Weibo」では、約1,900万人もの人々が彼女をフォローしている。

芸能活動だけではなく、2018年には美容関連会社を設立し、社長として美容用品のプロデュースも行っている。

プライベートでは2018年に結婚。

昨年には双子の男の子を出産し、母となった。

そんな蒼井さんに、これまでの人生の選択肢について聞いた。

■AVを選んだ理由は「有名になるための足掛かり」もともと芸能界への憧れがあり、スカウトをきっかけに芸能界へ入った蒼井さん。

なぜ、職業としてセクシー女優を選んだのか?「自分がAV女優をやりたくて門を叩いたというのではなくて。

スカウトされて『裸覚悟で頑張ります!』って言ったら、紹介されたのがAV女優の事務所で、っていうだけでした。

話をしていると、事務所側の誠意も感じて。

AV女優っていう職業も悪くはないな、それを足掛かりに有名になれたらいいな、って」有名になるための足掛かり。

それでも、カメラの前で裸になること、男性と絡むことへの抵抗感はなかったのかと聞くと、「抵抗がなかったと言うとうそになる」と答えた。

「でも、AVをやるって決めてからは抵抗することもなく、楽しもう、みたいな。

これで終わる人生だと思ってないし。

でも、セックスが好きでやってますっていう感じで取られるのもすごく嫌。

この世界を変えたいっていう気持ちもなくて、ただ“蒼井そら”っていう一人の人間がAVをやっている。

『こういうAV女優もいるよ』っていう気持ちでした」「これで終わる人生だと思っていない」。

自分で決めたことには責任を持って、途中で投げ出すことなく、有名になるという目標のためにただ突き進む。

蒼井さんの芯の強さを感じる言葉だ。

ふと、人生を決めつけてしまうことがある。

いずれか一つを選んだら、あとの選択肢は消えてしまうのではないか、と。

蒼井さんも、この職業に就いたらこの道しか進めないんじゃないか、と不安にはならなかったのだろうか。

「私も、自信は漠然としたもので、今振り返ると『こっわ!』ってなります(笑)。

でも、自信があるとか勢いってすごく大事で。

空気って、自分で変えていくものだと思ってるんです。

私の場合、漠然とでも自信があったっていうことが、空気を変えていた。

自分がこんな仕事がしたい、と思ったタイミングで、マネージャーさんからそういう仕事の話をもらうことがあったり。

だから、漠然とした自信だけでもいい。

決めつけは、もったいないと思います」■「もう有名になった」と勘違いして腐っていた時代デビュー後、彼女の作品は次々と業界の記録を塗り替えていく。

当時人気だったゴールデン番組にゲスト出演したことで知名度が上がり、その後もドラマや深夜バラエティのレギュラーなど、徐々に活動範囲を広げ、順調に芸能界の道を進んでいったように思えた。

だが、20代後半の頃は「腐っていた」と振り返る。

「有名になりたいっていう気持ちで仕事をやっていたので、テレビに出れたことで『目標達成しちゃった』って勘違いしたんです。

もう有名になったじゃんって。

そうなった時に、『それなのになんでAVを続けてるんだろう?』って。

体を使う仕事なので、精神的にもきついなと思うこととか、それに付随して体が付いていかないこともあって……。

本当に何も道が見えなくなって、もうダメだ、あたしもう無理だって思ってました」その当時交際していた恋人と結婚することも考えたという。

「人気商売だし、結婚したらもう終わりだなって。

子どもも欲しかったので、潮時なのかなと」

結婚か仕事か。

悩んだ末、仕事を続けることを選択する。

そこにはどんな思いがあったのか。

「当時は結婚を肯定的に捉えてなくて、“逃げ”でしかないなって思ってた。

友達からは、『輝きがないよね、光ってないよ』みたいなことを言われて。

『何それ、別に輝きなんか必要ないし!』と思ってたんですけど、その言葉がすごく気になって、ずっと考えていました。

それで、自分がギラギラしてた新人の時から比べたら、『あたし超腐ってたんだな』って気付いたんです。

別に大きい目線で見ると目標なんて達成してなくて、勘違いしてただけなんですよね」友人の一言をきっかけに自分を俯瞰し、いかに自分が“腐っていたか”に気付いた彼女は、そこから一念発起する。

「月1本撮る契約でしたけど、撮影できませんって言って避けてきたので、半年に1本ぐらいしか作品が出てないような状態で。

これはダメだ、このままじゃ“蒼井そら”がなくなっちゃうって思ったんですよ。

それでマネージャーさんに、『今まで本当にすみませんでした! 新人の時みたいにまた頑張ります!』って伝えました。

そうすると、空気がガラッと変わっていったのが分かったんですよね」■中国で見つけた新しい自分「きっとAVを辞めるタイミングってあるんだろうな、でもそんな時っていつ来るんだろうって思ってました。

でも、その時が来たら自分で決めようって」停滞していた時期を脱し、「有名になる」という目標に向けて再スタートを切った。

セクシー女優を辞めるタイミングは自分で決める、でも“その時”が見えない。

そんな中で頑張り続けていた頃、あるものに出会う。

「当時、Twitterが流行り出して。

アカウントを作ってみたら、中国の方からたくさんフォローしてもらったんです。

そんな時に、中国にイベントで呼ばれて」彼女を待っていたのは、信じられないほど大勢の中国人ファンだった。

イベントでも、動線が確保できず、舞台へ上がるのに1時間を要した。

ようやく登壇したとき、熱狂のあまりファンがパニック状態になってしまい、5分ほどではけさせられたという。

「『もう下がって!』って、連れて行かれるみたいな(笑)。

中国でこんなにファンがいっぱいいて、その5分でもしも中国語を喋れたら、もっとコミュニケーションとれたのにって。

当時は、ニーハオとニーハオマーしか言えなかった。

でも、『ニーハオマー(元気?)』って聞いた時に、『ハオハオハオ!(元気だよ!)』っていう会話をしたのがすっごくうれしくて。

それだけの会話でもこんなにうれしい。

その時に、『あたし中国でやりたい』って思ったんです」「有名になりたい」と芸能界に飛び込んだ一人の女の子が、夢をかなえた瞬間でもあった。

セクシー女優を卒業して、次のステップへ行く。

これがそのタイミグなのかもしれない。

事務所もその意思を汲み、こうして蒼井そらはセクシー女優を引退した。

「引退作は撮ってないんです。

前回撮った作品で最後にしたいですって、事務所に話して」そう語る蒼井さんに、最後の区切りとして引退作品を撮る必要はなかったのかと聞くと、まっすぐな言葉が返ってきた。

「区切る必要はないんです。

“蒼井そら”は終わるわけでもないし、それを一つの区切りとしてしまうと変だなって。

終わるわけじゃなく、活動の中の一つだって思ってるから」そう答えた彼女の姿に、“蒼井そら”へ対するリスペクトを感じた。

セクシー女優をやっていたから、“蒼井そら”という名前が海を越えて行き、今まで見たことのなかった景色を見せてくれたのだ。

■おばあちゃんになっても「蒼井そら」でいたいこの度、彼女の半生をもとにした小説『夜が明けたら 蒼井そら』が発売された。

その本の中に、こんなワンフレーズがある。

「視界ゼロの大きな河を全力で暴れながら、誰も見たことのない場所まで辿りついてみせる」本は事実をもとにしたストーリーだが、現実では国内外での芸能活動も順調に進み、最近では美容関連会社も起業。

私生活では、全てをひっくるめて愛してくれる男性と結婚し、双子の男の子にも恵まれた。

そんな彼女に聞いた。

本から、あえて引用させてください。

今、“たどり着いた”と実感していますか?「たどり着いたとは思ってないのかな。

でも、結婚と出産はすごく大きいかもしれない。

逃げだと思ってた結婚を、ちゃんと公表できて、それでもファンの方が付いてきてくれて。

悩んでた時期があるからこそ、今幸せだよっていう気持ちはもちろん伝えたい。

夜が明けたよって。

でも自分の中では人生は続いてて、まだまだ先はあると思ってる」過去と今は地続きだ。

彼女は常に、人生の選択を自分の意思で行ってきたように思う。

そして、一度決めたことは最後までやり抜く。

その強さを持ち合わせているから、流れの激しい“大きな河”でも、自分を見失わずにいられたのだろう。

何よりも、彼女はただ流されていたわけじゃない。

河の中で、流れて行くさまざまなものをつかみ取り、組み合わせて、自分の船を作り上げた。

オールを握る手が震える時には、その手を包んでくれる家族がいる。

大切なものを乗せて、まだ見ぬ景色を目指し、これからも河を渡っていくのだろう。

続いていく人生の中で、この先どういうことをしていきたいかと聞くと、「ずっと蒼井そらでいたい」と、迷いのない答えが返ってきた。

「昔そういう人がいたよね、とはなりたくなくて。

現役で、タレントとして、発信する人でいたいなとは思ってます。

おばあちゃんになっても“蒼井そら”っていう名前を背負っていきたい」――蒼井さんは、言葉にうそがない。

つまり、自分に対してうそがないのだ。

自分を信じているからこそ、選んできた道を疑ったり、後悔したりすることがない。

たとえ誰になんと言われようとも、彼女が“蒼井そら”として自分を表現し続けることができるのは、自分を信じてやり抜く力があるからだ。

過去と今を区切ることなく生きる彼女は、これからどんな道を選んでいくのか。

立ち止まることがあったとしても、道を見失うことはきっとない。

だってそこには、「蒼井そらであり続ける」という、どうしたって腐りようのない芯があるから。

藤原亜姫『夜が明けたら 蒼井そら』(主婦の友社)「AVはただの足がかり。

あたし、こんなところで終わらないから」。

アジア一有名な元AV女優・蒼井そらさんの半生をモデルに、作家・藤原亜姫さんがドラマティックにストーリー化。

「有名になりたい」と夢見る一人の女の子が、一生懸命不器用に生きながら、普通の幸せをつかんでいくまでの物語。

通常版(紙版)と電子版(上巻・下巻・完全版の3種)あり。

電子版は通常版には未掲載のエピソードと未公開カットを収録している(※未公開カットは下巻と完全版のみ)。

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